霊芝子実体のエタノール抽出物の安全性及びケラチノサイト(角化細胞)の増殖に対する促進作用について

研究結果(図1に参照)によると、霊芝子実体のエタノール抽出物(30種類以上のトリテルペンを含有するGanoderma Lucidum Ethanol Extract)または霊芝酸A(Ganoderic Acid A、当抽出物の定量指標成分)が高濃度時のみ、細胞生存率に影響を及ぼすことが判明しました。つまり、霊芝子実体のエタノール抽出物は、人のケラチノサイトに使用しても安全性が高いと考えられます。また、霊芝酸Aは定量指標成分として、適していることも判明しました。

文/周禹晴、許嘉玲      中文版/請連結

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人のケラチノサイトを5ug/mLと10ug/mLの霊芝子実体のエタノール抽出物と一緒に培養すると、1〜2日経過後にも細胞の増殖を促進させることが確認されましたが、霊芝酸Aで培養するケラチノサイトではこのような効果は見られませんでした。つまり霊芝子実体のエタノール抽出物は、人のケラチノサイトの増殖を促す効果があります。それは霊芝酸Aからの作用、もしくはそれ以外の多種のトリテルペンが総合的に作用した結果も考えられます。

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図1 霊芝子実体のエタノール抽出物と霊芝酸Aはケラチノサイトに対する(a)生存率と(b)細胞増殖の影響

 

霊芝子実体のエタノール抽出物はケラチノサイトの移動能力を高める

更に研究では、霊芝子実体のエタノール抽出物は創傷治癒実験で人体のケラチノサイトの移動能力にどのような影響を与えるかについての分析をしました。創傷治癒実験とは体外で細胞遊走を評価する一つの方法で、創傷部周囲から中央部に細胞が移動するかを観察することです。中央部が細胞によって覆われていて、空白の部分が少なければ少ないほど細胞の移動能力が優れていることとなります。

24時間の実験結果は図2に示したように、霊芝子実体のエタノール抽出物の濃度(10ug/mLが最も効果的な投与量)が上昇するにつれて、細胞に覆われていない面積が小さくなりました。これは霊芝子実体のエタノール抽出物は人体のケラチノサイトに対して移動能力を促進する効果があると判明し、傷口の表皮細胞を再生できることにも期待されています。

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図2 霊芝子実体のエタノール抽出物のケラチノサイトの移動能力に与える影響

 

霊芝子実体のエタノール抽出物は細胞の増殖と遊走に関連するするタンパク質を調節する効果がある

Cyclin B1、CDK6、CDK2、Cyclin D3は細胞周期に関連するタンパク質で、EGFR、MMP-2、MMP-2、MMP-9、Srcは細胞の増殖と遊走に関連するタンパク質です。それぞれのタンパク質の量が増えれば、細胞増殖と遊走も高くなります。

研究では、霊芝子実体のエタノール抽出物(5ug/mLと10ug/mL)を細胞と一緒に培養すると、いずれもタンパク質の量が明らかに増加したことが分かりました。(図3)結果として、人体のケラチノサイトの細胞増殖及び遊走を促進する効果があるのは、霊芝子実体のエタノール抽出物がタンパク質の調節に関与しているからです

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図3 霊芝子実体のエタノール抽出物はケラチノサイトの細胞増殖及び遊走に関するタンパク質に影響を与える

 

霊芝子実体のエタノール抽出物は酸化ストレスによる細胞死を軽減させる

人のケラチノサイトを H₂O₂(フリーラジカルの一種)に曝露すると細胞は酸化ストレスによって死滅します。

図4に示したように、ケラチノサイトを H₂O₂に曝露された状態で、事前に5ug/mL又は10ug/mLの霊芝子実体のエタノール抽出物を入れると、細胞の生存率を明らかに高められることが判明しました。霊芝子実体のエタノール抽出物は細胞の抗酸化力を高める効果も認められました。

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図4 霊芝子実体のエタノール抽出物は人のケラチノサイトを酸化ストレスによる傷害に対抗する手助けとなる

図4に示したように、ケラチノサイトを H₂O₂に曝露された状態で、事前に5ug/mL又は10ug/mLの霊芝子実体のエタノール抽出物を入れると、細胞の生存率を明らかに高められることが判明しました。霊芝子実体のエタノール抽出物は細胞の抗酸化力を高める効果も認められました。

 

霊芝子実体のエタノール抽出物は細胞死に関連するタンパク質が活性化されることを阻止する効果がある

AKT、ERK、p53、は細胞がフリーラジカルによる攻撃を受けた時に、細胞を死に誘導するタンパク質のことです。また、STAT3(シグナル伝達兼転写活性化因子)は細胞の成長に関するDNAをコントロールすることができますが、STAT3の働きが過剰に上昇すると細胞死を促すことに影響を及ぼします。実験によると、 H₂O₂はこれらのタンパク質の働きを上昇させ、細胞死を促す結果になります。しかし、事前に霊芝子実体のエタノール抽出物と一緒に培養した細胞は、 H₂O₂の影響下でも細胞死に関与するタンパク質の働きが著しく減少したことが見られました(図5に参照)。これは霊芝子実体のエタノール抽出物はフリーラジカルによる細胞死を抑制できる効果を示しています。

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図5  霊芝子実体のエタノール抽出物は細胞死に関連するタンパク質の働きに影響

 

霊芝は飲むだけではなく、外用薬としてもぴったり!

皮膚損傷を修復するためには細胞の増殖だけではなく、細胞の遊走も重要です。酸化ストレスはアレルギーや炎症性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、乾癬等)の発症に重大な関連性があり、皮膚の老化とその機能に影響する要素です。皮膚疾患の治療や健康な皮膚を維持するためには、酸化ストレスを調節するのがとても大事になります。

上記の実験結果を総合的に見ると、霊芝子実体のエタノール抽出物は細胞に対して毒性が極めて低いだけではなく、人のケラチノサイトの増殖と遊走を促進させることができます。傷の治りを早めると同時に、フリーラジカルによる細胞死を抑制する効果もあります。

今回の研究結果では、霊芝子実体のエタノール抽出物は薬用化粧品や皮膚治療及び他の医療用途における発展性に注目を集めただけではなく、霊芝が薬用化粧品の分野においても応用できる裏付けとなりました

 

〔出典〕Mario Abate, et al. Ganoderma lucidum Ethanol Extracts Enhance Re-Epithelialization and Prevent Keratinocytes from Free-Radical Injury. Pharmaceuticals 2020, 13(9), 224.

〔中文版〕研究新知:靈芝乙醇萃取物可以加速皮膚修復,防止自由基傷害