霊芝で認知症を予防する

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脳の中では、たくさんの神経細胞がネットワークを組み、膨大な情報を伝えながら働いています。その情報を伝えるのが「神経伝達物質」と呼ばれる一群です。アセチルコリンは、数ある神経伝達物質の中で、最も重要な物質の一つです。アルツハイマー型認知症の人が亡くなった後、脳を解剖して調べたところ、「アセチルコリンの活性が低い」ことが判明されました。従って、アルツハイマー型認知症の臨床上の症状は、脳内のアセチルコリンの活性が低くなることで起きるのではないか、という仮説が立てられました。

文/許嘉玲  中文版/請連結

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私たちが、人や物事を覚えられるのは「アセチルコリン」に頼っているからです。アセチルコリンは認知と記憶を司っている神経細胞の間で情報伝達物質として活躍し、任務完了したらアセチルコリンエステラーゼによって加水分解され、神経細胞に回収され、再利用されます。

アセチルコリンエステラーゼは自然に存在していますが、濃度が高くなったり、異常に活性化したりする場合、アセチルコリンの量が減り、神経細胞の間での情報伝達に支障が出るなど、認知力低下や記憶力の退化に繋がります。

過剰なアセチルコリンエステラーゼと酸化ストレスはアルツハイマー病等の認知症を引き起こす主な原因になると認められています。臨床上で、アルツハイマー病の治療薬としてよく使われているドネペジル(donepezil)はアセチルコリンエステラーゼを可逆的に阻害することにより脳内アセチルコリン量を増加させ、アルツハイマー病の悪化を遅らせる作用があります。

今年Biomedicine & Pharmacotherapy≫という雑誌にインドのパンジャーブ大学(Department of Pharmaceutical Sciences & Drug Research, Punjabi University, Patiala)がある研究を発表しました。その内容によると、霊芝のアルコール抽出物はアセチルコリンエステラーゼの活性化を低下させ、脳の酸化ストレスが軽減することによって、認知症や記憶力の退化を防げることが分かりました。

この研究を発表した筆者の話によると、過去の霊芝研究ではGanoderma boninenseGanoderma lucidum等の霊芝は抗酸化やアセチルコリンエステラーゼを抑制する作用によって神経を護る効果があります。従って、今回の研究材料では、以前使われたことがない、且つインドで栽培されているGanoderma mediosinenseGanoderma ramosissimumを使用することになりました。認知症の予防になる霊芝の種類が更に増えることを期待しています。

しかし、同じ70%のアルコールで抽出した二種類の霊芝(Ganoderma mediosinenseGanoderma ramosissimum)で行った細胞培養実験では、Ganoderma mediosinense(以下GMEに省略)の方が、より良い抗酸化作用とアセチルコリンエステラーゼを抑制する効果があった為、動物実験はGMEで行いました。

  

霊芝を飲んだマウスの方が賢い?!

この実験内容は、まずマウスに霊芝の抽出物もしくは認知症の治療薬―ドネペジル(donepezil)を経口投与して、その30分後にスコポラミン剤(アセチルコリンを抑制する薬物)を注射して認知症の症状を誘発します。注射の30分後と翌日に「受動的電撃回避実験(Passive Shock Avoidance, PSA)」と「新奇物体認識試験Novel Object Recognition」の二つの実験を行うことでマウスの認知能力と記憶力を評価します。

 電撃回避できる

「受動的電撃回避実験(Passive Shock Avoidance, PSA)」では、マウスが暗い場所を好む習性を利用し、ずっと暗い所にいる場合に電撃を与え、逆に明るい部屋にいる場合は電撃を与えません。「明るい所に留まって、我慢して暗い所に行かないことによって、電撃回避が出来ること」を実験内容として、動物が一度経験した嫌悪刺激(電気刺激)に対して回避行動を記憶出来るかどうかを見ます。従って、マウスが明るい所に残る時間の長さで、マウスの記憶力を評価することが出来ます。

下記の図1を見ると、ドネペジルとGMEを与えられたマウスは、スコポラミン剤で認知症の症状を誘発されたとしても、良い記憶力が保たれていることが分かりました。

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しかし、実験結果から見て、少量(200/kg)と中量(400/kg)のGMEを投与されたマウスでは、効果が顕著には出ていません。大量(800/kg)のGMEを与えられた方は明らかに効果があり、認知症の治療薬―ドネペジル(donepezil)のそれと大きな差はありません。

 新しい物を識別出来る

新奇物体認識試験Novel Object Recognition」の実験では、マウスの強い好奇心と新しい物が好きと言う習性を利用し、二つの物のうちどちらが新しく、どちらが古いかの区別が出来るかどうかを試します。

マウスが新しい物に対して、近距離で匂いを嗅いだり体で接触したりする等の時間を測定し、2つの物に対する合計探索時間を割ってから得た数値を、「識別指数(Recognition Index, RI)」と言います。数値が高ければ高いほど、マウスの認知と記憶力が良いということを示します。

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上の図2を見ると、受動的電撃回避実験の結果と同様に、認知症の治療薬―ドネペジル(donepezil)とGMEを服用したマウスは効果が明らかに優れています。それと同時に、GMEの量とその効果は正比例することも分かりました

  

霊芝の抗認知症メカニズム

 アセチルコリンエステラーゼの抑制と抗酸化作用

マウスの脳を分析することで更に、スコポラミン剤はアセチルコリンエステラーゼを過激に活性化させ、酸化ストレスを大幅に増加させる作用があることが判明しました。しかし、事前に大量のGMEを投与することによって、マウスの脳内のアセチルコリンエステラーゼの活性も正常値に下げることが出来(図3に参照)、酸化によるダメージも軽減されること(図4に参照)が分かりました。

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   脳細胞を護る

研究者たちはマウスの脳をより良く分析する為に、マウスの海馬と大脳皮質を組織染色し、病理検査を行いました。海馬と大脳皮質は脳内で最も認知と記憶力を支配している場所です。その中に存在している神経細胞の多くは錐体細胞で、神経細胞の細胞質が空胞化になることが認知症の病理特徴だと言われています。スコポラミン剤は海馬と大脳皮質内の錐体細胞の数を減少させ、空胞化される細胞の数を増やします。事前にGMEを投与した場合、その結果は真逆になります。GME錐体細胞の数を増やし、空胞化される細胞の数を減らすことが出来ます。

 

「フェノール類」は霊芝が認知症予防のキー

以上の研究結果をまとめると、高濃度な霊芝抽出物GMEアセチルコリンエステラーゼの抑制や酸化ストレスを低下させたり、海馬と大脳皮質の神経細胞を護ったりすることによって、認知と記憶力を良い状態に保ちます。

霊芝抽出物GME1gのフェノール類の含有量は67.5㎎です。フェノール類は以前からアセチルコリンエステラーゼの抑制と抗酸化作用があると証明されているので、研究者たちは霊芝の中に含まれているフェノール類は認知症を予防出来ると判断しています。

臨床上でよく使われる認知症の治療薬は、食欲不振、嘔吐や下痢と便秘等様々な副作用があります。霊芝抽出物の様な天然な薬物が、もし認知症治療に応用出来るなら、人々にとっても朗報ではないでしょうか。

〔出典〕Kaur R, et al. Anti-amnesic effects of Ganoderma species: A possible cholinergic and antioxidant mechanism. Biomed Pharmacother. 2017 Aug; 92: 1055-1061.